バンクシーは神出鬼没の覆面アーティストで、社会的な風刺作品を世界中でゲリラ的に発表していますが、2020年の「在宅勤務」のバンクシーの可愛らしいいたずらネズミと、「風船と少女」のオークション落札後に起きたシュレッダー事件について書いています。
バンクシーの在宅勤務
バンクシーが発表したのはバンクシーの自宅のバスルームを数匹のネズミがいたずらして回っているというものです。
バンクシーの公式インスタグラムに2020年4月16日「My wife hates it when I work from home.(私が在宅勤務すると妻は嫌がる)」というコメントと共にバスルームの様子を撮った写真が数枚投稿されました。
その写真に乗っているのはいたずらし放題のバンクシーのあの有名なドブネズミ達です。
そのドブネズミ達のいたずらは・・・
・換気扇か何かのスイッチと思われる紐に尻尾を絡ませて上から降りてくるネズミ
・フェイスタオルをかける輪につかまり、洗面台の歯磨き粉のチューブの上に足を伸ばして、歯磨き粉を壁に飛び散らしているネズミ
・棚にあるトイレットペーバーを倒し、その上を走ることでクルクルとトイレットペーパーを床まで巻き散らかしているネズミ
・トイレの便座から粗相をして便座を汚しているネズミ
・壁に口紅で落書きしているネズミ
・棚の上から化粧品か何かのポンプ部分を押して中身を振り撒こうとしているネズミ
・壁にかかっている鏡に乗ってしまって、鏡を傾かせて落ちそうにしてしまっているネズミと、下からその鏡に手を伸ばすネズミ達
・洗面台の向かって左下の壁には黒い半円のネズミの出入り口があり、その中から様子を伺うネズミ達
ネズミ達はやりたい放題です。世の中の事なんてお構いなしで。
でもなぜか憎めないし、微笑ましく感じます。
このネズミ達からは、何かに反発や異論や問題定義をする風刺作品というよりは、今はこういう時であるというバンクシーのメッセージ性を感じました。
世界中でたくさんの家庭で外出に制限がかかり、子供達がこんな感じに悪気もなく親の手を焼かせていることを、バンクシーの作品は再確認させてくれたような気がします。
見た人が「そうだ、ウチだけではないんだ」「これ、あるあるだよね」とクスリと笑えるといいなと私は思いました。
バンクシーはイギリス人でブリストル出身ということしか分かっていないですが、イギリス政府は2020年3月23日より外出禁止令を出しているため、バンクシーも在宅勤務だそうです。
結婚しているという事を初めて知りました。
そして在宅勤務でもバンクシーの心は健全で何も変わっていないことが伝わってきます。
いつも人間の所業や政治のダークな部分を風刺するアートが多いバンクシーですが、こんな世界中が重苦しい空気になった時にはこんなに優しいアートを提供できるのが素敵だと思いました。
これがアート作品の存在意義ですよね。人の想いの詰まった作品は力があるなと再確認することができました。
バンクシーの「風船と少女」のシュレッダー事件
バンクシーは風刺作品で有名ですが、それ以外に盛大に仕掛けた事件の一つが2018年10月のサザビーズ・ロンドンのオークションでの「風船と少女」のシュレッダー事件です。
この「風船と少女」は2002年にロンドンのウォータールー橋に続く階段の壁にステンシルという方法で描かれたバンクシーのグラフィティアートから派生した作品ですが、プリント作品ではありません。
この「風船と少女」はキャンバスにスプレーとアクリル絵の具で描かれています。
2006年のバンクシーの個展の後に友人に渡った作品と言われていますが、バンクシーは「風船と少女」がいつかオークションにかけらる事を予想していたそうです。
だから友人に手渡す前には、自動でシュレッダーが動くように額内に仕掛けをしていたと言います。
そのシュレッダーを「風船と少女」の額内に設置する映像がバンクシーのbanksyfilm(Youtubeチャンネル)に公開されています。
その動画のタイトルは「Shredding the Girl and Balloon-The Director’s half cut」です。
この動画の中ではシュレッダーの仕組みが細かく紹介されています。
二つのローラーが回転して挟まれた絵が歯に裁断される仕掛け、そしてローラーを回転させるモーターと動力を与えるバッテリーが取り付けられているのが分かります。
シュレッダーの大きさはしっかりと額の幅と厚みに納まるように作られていて、バンクシーの本気度を感じます。
そして本番は2018年10月5日のサザビーズ・ロンドンのオークション会場となりました。
「風船と少女」は当時のバンクシー作品のオークションにおける最高額となる104万2000ポンド(約1億5500万円)で落札されました。
落札を告げる木槌がなった直後、電子アラーム音が鳴り響き人々が不審がる目の前で「風船と少女」は自動的にシュレッダー装置によって細く裁断されました。
その時の映像はバンクシーのインスタグラムでも公開されています。
バンクシーはこの動画にピカソの「破壊の衝動は、創造的でもある」という言葉を引用しています。
バンクシーの作品は手に入りづらいことによって、近年オークションにかけられ高値で売買される事が多くなりました。
バンクシー自身が絵画や作品が高値で売買されるオークションに否定的なため、この「風船と少女」のシュレッダー事件はバンクシーのオークションに対する挑発であると考えられます。
オークションに参加できるような富裕層が、絵画の価値を作者の意思を無視して値段をつり上げていくことへのバンクシーなりの意思表示と思われます。
商業主義のアートを嫌うバンクシーらしいですね。
シュレッダー事件の後日談
「風船と少女」のシュレッダー事件のニュースは世界中を駆け巡り、さらに有名になり、結局この作品の価値をさらに上げることになりました。
これはバンクシーの望むところではなかったと思います。計算外だったのではないでしょうか?
また、シュレッダー事件の動画を見るとわかりますが、「風船と少女」のシュレッダーが途中で止まったため、作品は下半分だけがシュレッダーをかけられた状態となりました。
これはバンクシーが真ん中でわざと止めたのではなく、ただの失敗だそうです。
バンクシーのbanksyfilm(Youtubeチャンネル)で公開されているシュレッダーの仕掛け動画「Shredding the Girl and Balloon-The Director’s half cut」の最後に、バンクシーのリハーサル動画があります。
その動画内では最後まで綺麗にシュレッダーにかかっていますし、バンクシーも後日、コメントで本番での失敗を認めています。
このシュレッダー事件を経てこの「風船と少女」は「愛はごみ箱の中に(Love Is in the Bin)」に改題されました。
バンクシーの作品について思うこと
バンクシーの作品やパフォーマンスは、どこか痛快で「バンクシーが…」という記事やニュースを見るたびに「今度は何を?」という期待感でワクワク、ドキドキします。
そしてバンクシーのパフォーマンスによって知ろうとしなかった世界の問題や目を背けている問題を改めて突きつけられると感じます。
作品によっては今回のバンクシーのバスルームのネズミ達のように優しさを持って心に入ってくるもの、
その一方でパレスチナ分離壁などに描かれた天使が分離壁をこじ開けようとしている作品や、分離壁を越えようとする「風船と少女」のように問題提起をしてくるものと様々ですが、
毎回思うのは、必ず心に何かがスッと入り込んでくるということです。
これが私にとってのバンクシーの最大の魅力ですね。
追記
バンクシーのインスタグラムでは上記二つの動画が公開されていますので、興味のある方はこれを機に覗いてみてください。
とても興味深いですよ。