光の魔術師と呼ばれたヨハネス・フェルメール。代表作品「真珠の耳飾りの少女」などのフェルメールの作り出す光とフェルメールブルーの世界について書いています。
フェルメールの本名はヨハネス・フェルメールです。1632年にオランダのデルフトに生まれ、バロック期を代表する画家のひとりです。1675年(43歳)で亡くなるまで36点の作品を残しています。
バロック期って?
バロックとは「歪んだ真珠」という意味です。「歪んだ真珠」って何のこと?って思いますよね。「歪んだ真珠」とは「ルネッサンス期」のことです。
ルネッサンス絵画の作品は日中の明るい色彩で描かれたものが多いのに対して、バロック絵画は光と影の明暗を駆使して、構成もドラマティックで劇的で生々しいものが多いです。
その中でも「光」の表現を得意としたフェルメールは「光の魔術師」と呼ばれています。
フェルメールの画家としての活動
フェルメールが画家として活動し始めたのは1654年頃からとされていますが、どこの誰に弟子入りしたのかなど、その前の活動については不明です。
この時代のオランダは商業の発達で市民向けの芸術が求められる風潮があり、そのためにオランダの画家達は宗教画ではなく、風俗画、風景画といった方面の絵画を発達させていきます。
フェルメールの風俗画は市民生活の一瞬を描くもの
フェルメールは市民の生活の一瞬を、優しく穏やかな表情と構図で描き上げています。そのためほとんどのモデルはこちらを見ていません。オランダ市民の共感を得るような構図で、その生活の一瞬を切り取るのがフェルメールの風俗画の作風でした。
フェルメールの作品のフェルメールブルーとは?
フェルメールの代表作品として「真珠の耳飾りの少女」と「牛乳を注ぐ女」があります。あまりにも有名な作品なので、ご覧になった事がある方も多いと思います。
「真珠の耳飾りの少女」と「牛乳を注ぐ女」に共通するのは鮮やかなブルーと黄色のコントラストです。この青色はウルトラマリンブルーというラピスラズリを主成分とした鮮やかな顔料を使ったもので、ラピスラズリは金と同等の価値のものでした。
この青色を「フェルメールブルー」または「ウルトラマリンブルー」と呼びます。
ウルトラマリンブルーを贅沢に使う事ができるのは裕福な画家だけで、フェルメールの場合はパトロンと義母の財力によって高価なウルトラマリンブルーを大胆に使う事ができました。
さらに興味深いのはフェルメールはそのブルーを身分の高い人の肖像画には使わず、身分の低い下働きの少女や女中さんを描く時に多く使っています。
このフェルメールブルーの使い方に、フェルメールの意図を感じる事ができます。声には出さない、静かなフェルメールの心情を探る事ができます。
またフェルメールブルーを際立たせるために補色が使われています。補色とは色相環の対になるところにある色で、青の補色は黄色となります。
フェルメールはフェルメールブルーを際立たせるために補色の黄色を用いています。それだけブルーにこだわりがあったと言い換えられると思います。
フェルメールの光と技法
「光の魔術師」、「光の巨匠」と表現されることもあるフェルメールですが、その技法は「ポワンティエ」と呼ばれ、フェルメール作品の特徴のひとつです。
光の明暗をドラマティックに演出するバロック絵画の中でも、窓から差し込む光を演出するフェルメールの技術は秀逸です。
よく見ると「真珠の耳飾りの少女」では耳飾りや襟や目に白い点があるのが分かります。「牛乳を注ぐ女」では籠の持ち手やパンに白い点がうってあります。
このように光が当たっているところに白い点を置く点描技法のが、ポワンティエです。これを駆使してフェルメールはドラマティックな演出をしています。
またフェルメールはその絵の中心になる人物についてはかなり写実的に描き込みますが、周りに関しては筆のタッチが見てとれるような大胆な描き分けもしています。この狙いはやはり観た人の視線を中心人物に持っていくことだと思います。
フェルメールの光は他のバロック絵画と比べて柔らかく暖かく感じます。当時のバロック絵画の画家が人物を描き出すために、ドラマティックにするために光を利用したのだとしたら、フェルメールはそこにある空気を描くために光を使ったように感じます。
フェルメールにとってドラマティックな瞬間は毎日の些細な事柄や生活の中にもあり、それは強烈な表現方法では表し得ない、優しさや平和さをふくむものであったのだと感じます。フェルメールの光には穏やかな一瞬の時を感じる事ができます。
フェルメールは日本では最も人気のある作家の一人です。必ずまた美術展が開かれると思います。その時はぜひ、生のフェルメールの切り取った瞬間を感じてください。